ホワイトニング治療について――基礎編
第一章 ホワイトニング治療についてよく聞かれる質問
ホワイトニングは歯を白くする治療と言われていますが、基本的には衣類や食器の漂白と同じことです。
衣類や食器の漂白も歯のホワイトニングも汚れを分解して本来の白さを取り戻すものです。ホワイトニングすると白くなるというので、その人の歯が本来持っている白さより白くなると思われている方がいますが、ホワイトニングではできません。そういう時は他の治療法がありますので、あとでご紹介したいと思います。
もう一度言いますが、ホワイトニング治療とは歯の表面にこびりついた汚れを分解して、その人が本来持っている白さを取り戻してあげることです。
ホワイトニングをやってみたいと思っている人が、聞いてみたいことのベストファイブは以下のようなものです。
以下このご質問にお答えしましょう。
1 本当に白くなるの?
近頃では歯を白くすると宣伝している歯磨き剤がいろんな会社から発売されていて、使用している方も多いと思います。そしてなかなか思い通りに白くならないので不満に思っている方が少なからずいるのではないでしょうか。
このタイプの歯磨き剤は大きく2種類に分けられます。
1つ目が昔からあるタイプで、研磨剤が入っています。
食器に頑固な汚れがこびりついたときクレンザーを使ってその汚れを落としますが、同じ原理です。歯の表面を硬い研磨剤でこすってこびりついた汚れを落とすものです。昔はタバコのヤニを落とす強力な歯磨き剤がありましたが、これがその典型です。確かに表面の汚れを落としますけれども長年のうちに歯も削れてきます。
人は年を取るにつれてだんだんと歯茎が下がってきて、いままで歯茎の中に隠れていた歯の根部分が口の中に出てくるようになります。これがセメント質と呼ばれる部分で、歯の表面を覆っているエナメル質と呼ばれる構造物よりは大分硬さが弱いという性質があります(でも骨と同じくらい硬く丈夫ですのでそんなに心配することはありません)。
研磨剤入りの歯磨き剤を長年使って、間違った歯の磨き方をしていると、このセメント質が特に削れていきます。その結果冷たい飲み物や風があたるとしみるという知覚過敏の症状を起こすようになります。
このタイプの歯磨き剤を使っている方は、今の磨き方に問題が無いかどうか一度歯科医に相談してみましょう。
知覚過敏はひどくなると耐えられないほど痛みが続き、神経をとらなければならなくなるので、もし知覚過敏に悩んでいる方がいらっしゃれば歯科医に相談してください。
2つ目の歯を白くするタイプの歯磨き剤が、近年広まってきたアパタイトと呼ばれる物質が入っているものです。
アパタイトとはヒドロキシアパタイトとよばれる化学物質の略称で燐酸カルシウムに属しています。アパタイトは歯をはじめ骨などの硬さの源です。歯の表面を覆っているエナメル質はほとんどアパタイトで出来上がっているのです。アパタイト同士は結合するという性質があるので、この種の歯磨き剤で歯を磨くと、エナメル質のアパタイトに歯磨き剤のアパタイトが結合してエナメル質の小さな傷を修復して白くなると考えられています。
この2種類が今売られている歯を白くするという歯磨き剤の白くするメカニズムです。
ここで今一度歯磨きチューブが入っている箱をよく見てください。小さく医薬部外品と書いてありますね。この意味はこれは医薬品ではありません、医薬品の成分は入っていませんということです。
病気を治すとき薬を飲みますね。これは医薬品です。病気の多くは医薬品でなければ治りません。そして効果が強ければ強いほど使い方を間違えるととんでもないことになるので医師か薬剤師でなければ扱えないようになっています。それが医薬品です。
医薬部外品とは間違った使い方をしても大事にいたる可能性は少ない(ゼロではありません)ということを意味し、ひるがえせばあまり効果は期待できませんよということです。
歯が白くなる歯磨き剤を使っているのに白くならないなと思っているあなた、別に使い方がおかしいからではなく、それが当たり前なのです。もし今使っている歯磨き剤でみるみる白くなったらそれこそおかしいことなので、十分注意することをお勧めします。
ですから歯を白くするために歯磨き剤しか使ったことがない方は一度専門医とご相談すると良いと思います。
歯科医が行うホワイトニングは医薬品である漂白剤を使用します。この漂白剤はオキシドールとかオキシフルと呼ばれる殺菌剤と同じ成分です。
殺菌剤にはばい菌を破壊する作用が有るので、いろいろな場所で使われていますが、私たちの体とばい菌には共通したところがあります。
いずれも細胞と呼ばれるものからできているということです。
ばい菌は細胞が1個ですが、人では細胞が何億個も集まってできています。ばい菌をやっつけるものは人間の細胞にも害を与えるので、殺菌剤だからといって油断はできません。もし体の中に入ってきたら大きな問題を起こす可能性があります。だから専門家の指導の下に漂白剤を使用することが大事です。そしてこれがホワイトニング治療の基本になるのです。
次にホワイトニングをやったのに自分では白くならなかったと思っている方がいると思います。
このようなことはホワイトニング治療の中でホームホワイトニングと呼ばれる治療を受けられた方に見られます。
その原因ですが、歯科医と患者さんの間のコミュニケーションが不十分であることが一番のような気がします。
ホームホワイトニング治療は歯科医の指導の下で患者さん自身が自分で行う治療です。つまり信頼関係がきちんと成立しないと成功はおぼつかない治療法です。
よくありがちなのは良い結果がでないことに対して歯科医は患者が指導を守らないからと非難し、患者さんはちゃんとした指導をしてくれないと歯科医に不満を持つようになります。
すなわち実際の治療よりもそれ以外のことが結果を大きく左右するという欠点があり、その意味でも歯科医はあまりホームホワイトニングを好まず、治療を100%コントロールできるオフィスホワイトニングに好感を持ちます。
後でご紹介する新ホワイトニング法はこのようなこれまでのホワイトニング治療の欠点をなるべくなくして患者のみなさんに信頼してホワイトニングを行っていただけるようにと考案されたものです。
2 時間や費用はいくらかかるの?
現在日本で行われているホワイトニング法はオフィスホワイトニングとホームホワイトニングです。
近年は両者を併用する治療法もあります。
時間の点から見ると、最も短期間で終わるのがオフィスホワイトニングで、うまくいけば1回の通院で自分が気に入った白さまですることができます。
次がホームホワイトニングで通常2から4週間で白くなるといわれています。
次に費用に関してですが最も高いのがオフィスホワイトニングで歯1本白くするのに5千~1万円するところが多いようです。
通常、上の前歯6本と下の前歯6本をホワイトニングする場合が多いのでそれだけで6万~12万円となります。
歯を白くするということに6万~12万円の価値があるか否かは、各個人の価値観によりますが、お化粧や髪のカラーリング、そしてネイルアートと比較すると割高であると思われます。
ホームホワイトニングはオフィスホワイトニングに比べると価格は安いのですが、こちらは歯科医によって値段がまちまちで、患者さんもホワイトニングを躊躇する原因のひとつにもなっていると思います。
なぜこんなことになるのかというと、ホワイトニング治療の捉えかたが歯科医によって異なるからです。
ホワイトニングを専門とする歯科医は最初のカウンセリングから治療後のフォローまでしっかりとしていますから当然価格もそれなりに高くなります。かたやウ蝕(虫歯)や歯周病の治療を主としている歯科医はホワイトニングにはあまり重きを置きません。極端な話、損しなければいい程度のサービスと考えている歯科医もいないわけではありません。
そしてホワイトニング治療に要する費用は全額患者さんに負担していただくことになります。
その結果費用に大きな開きが生じてしまうのです。
さらに問題を複雑にしているのが高いから必ずしも良いわけではなく、安いから必ずしもだめであると断言できるわけではない、ということです。
これでは何を信じていよいのかがわからないのでますますホワイトニングをしようという気持ちが萎えてしまうことになります。
費用だけ見ると数千円から最高12万円ぐらいまで大変幅がありますがもちろん費用だけで判断してはいけません。
3 白さはいつまでもつの?
せっかく歯を白くしたのですから、いつまでも白さを保ちたいというのは人情です。
残念ながら今のところ、どれくらい白さを保てるか個々の患者さんについて予測することは不可能です。
治療後の白さが失われることを「後戻り」といい、半年から2年で「後戻り」が起こるといわれています。しかし個人差が大きいので明確な予測はできません。
ただ一般的な傾向があります。
すなわち後戻りとは歯に再度着色物質が沈着するということですから、口の中にたくさんの着色物質が長い時間留まっていればそれだけ色がつきやすくなります。色の濃いの飲み物や食べ物(例えばコーヒーやカレーなど)を日常的に摂っている場合や、タバコを吸う人はホワイトニングをしても後戻りが早い時期から起こります。
もしホワイトニング治療の後の白さをいつまでも保ちたいならば食生活を見直し、タバコを吸っている方は止めることをお勧めします。そして後戻りをしてきたと感じたならすぐにホワイトニング治療を受けた歯科医に相談してください。おそらく短時間で費用も安く再び白くすることができます。何事もそうですが、いつまでも気持ちよく使おうと思ったら日ごろの手入れが大事なのです。
4 歯を溶かさないの?
いままで黄色くくすんでいた歯がホワイトニング治療を受けると輝いた白さになるので、皆様の中には歯の表面を溶かすから白くなったのではないかと考えている方もいらっしゃると思います。
歯科医が使用する漂白剤は殺菌剤と同じ成分からできています。この殺菌剤はばい菌を構成する有機物質を分解する働きがあります。漂白剤の効果も基本的には同じで歯の表面に沈着した有機性の着色物質を分解します。
一方、歯の表面のエナメル質を構成しているヒドロキシアパタイトは無機物質なので漂白剤が分解することはありません。
ですのでホワイトニング治療で歯が溶けるのではないかと心配する必要はありません。
ただホワイトニングでは漂白剤以外の薬も同時に使用しますので、製品によっては酸性の薬品を使っている場合があります。その場合は歯の表面のエナメル質を溶かす可能性(ほんのわずかですが)があります。
5 痛みが出たり、体に害はないの?
歯科医がホワイトニング治療で使用する漂白剤は歯の神経(歯髄)に対し刺激性があるので痛みが出てくる可能性があります。
特にオフィスホワイトニングでは高い濃度の漂白剤を使用するので痛みが出る確率が高くなります。
歯茎などに一滴でも付くと焼けるような痛みがでてきますが、専門医は最大の注意を払って治療を行いますので心配はいりません。ホームホワイトニングでも人により痛みが出てくる場合がありますが、個人差が大きいので予測はできません。しかし痛みがあるとは漂白剤が効いている証拠でもあり、漂白剤を取り除くとほとんどの場合痛みはなくなるので、それほど神経質になる必要はないと思われます。ただ痛みがいつまでも続くようでしたら神経に異変が起きている可能性が高いので、無理にホワイトニング治療を続けないで必ず歯科医に相談してください。また痛みが不快で我慢できないときも歯科医に相談してください。
次に体への影響ですが、殺菌剤と同じ成分を使用しているので体の中に入るともちろん影響があります。そのため歯科医は細心の注意を払い薬の取り扱いをしますので、オフィスホワイトニング治療ではほとんど問題になることはありません。若干心配なのがホームホワイトニングです。
ホームホワイトニングでは漂白剤が流動性のあるジェル状になっているので飲み込む心配があります。ですので通常ホームホワイトニングでは寝る時には使用しないよう指導され、飲み込む危険性を減らしています。
そのためどうしても白くなるまで時間がかかってしまいます。
白くなるまでの時間は漂白剤の濃度が高いほど、歯に作用させている時間が長いほど短くて済みますが、ホームホワイトニングでは漂白剤がジェル状であるため流れ出し、飲み込む危険性があるのでどうしても低濃度にしなければならず、歯に作用させる時間も一定以下にする必要があります。そのため効果が出てくるまで時間がかかるのです。この問題を解決するのが新ホワイトニング法で、後ほど詳しく説明させていただきます。
以上でよく聞かれる質問にお答えしましたが、どのようなホワイトニング法を選ぼうとも、大事なのは信頼できる歯医者さんを見つけて何でも相談することです。特にホームホワイトニングでは信頼関係があるか否かが、治療がうまく行くか否かを決めているといっても過言ではありません。あれやこれや聞くと気分を害するのではないかという気使いは無用です(中には嫌がる歯科医もいないわけではないので、相手を良く見ることも大切ですが)。歯科医の側からも患者さんに黙っていられると満足しているのか、何か不満があるのか察しかねるのです。ホワイトニングに限らず全ての医療は信頼が基本ですから、どこかには自分と気が合う先生がいるはずとあきらめないことです。そしてそういう先生が見つかったなら末永く付き合うようにしてください。