NPO法人 ホワイトニングプロパゲーションセンター

ホワイトニング治療について――上級編

第五章 歯が白くなるメカニズム

現在ホワイトニングで使用されている漂白剤は過酸化水素あるいは過酸化尿素のいずれかです(ものによっては併用している製品もあります)。
一般的にオフィスホワイトニングは過酸化水素を使い、ホームホワイトニングは過酸化尿素を使います。過酸化水素と過酸化尿素の漂白効果は基本的に同じです。なぜなら過酸化尿素は自然分解して過酸化水素と尿素に分かれ、その結果生成してきた過酸化水素が漂白作用を示すからです。
過酸化水素は強い漂白作用を示しますが効果の持続時間が短くすぐに効果を失うのに対して、過酸化尿素はすこしづつ過酸化水素を生成するので、穏やかな漂白効果が長い時間持続するという違いがあります。

過酸化水素は酸化還元剤で酸化も還元もしますが、ホワイトニングにおける漂白は酸化作用により進みます。すなわち

H2O2+AH2→2H2O+A

という反応が起こり色素(AH2)が酸化されて酸化物(A)となります。
つまり着色性の有機物質が分解(酸化)されることで色が消えるのです。

過酸化水素が酸化作用を発揮する過程でヒドロキシラジカル(OH-)やスーパーオキサイドアニオン(O2-)などの活性酸素が生成し、この活性酸素が酸化反応の主体となると思われます。活性酸素による酸化反応は以下のような反応が考えられています。

【可能性1】
H2O2+2e-→2OH-
2OH-+AH2→2H2O+A
【可能性2】
2H2O2+3e-→2H2O+O2-
O2-+2AH2+3e-→2H2O+2A

オフィスホワイトニングでは高濃度の過酸化水素(35%前後)を使用しますが、「すりガラス状」の白さとなります。
これは歯の表面に存在する有機物質を完全に分解してしまうことで歯の表面構造であるエナメル質を露出させて、歯に当たる光を乱反射させるために白く濁ったように見えるのです。というのもエナメル質はエナメル小柱と呼ばれる柱状の構造物が集まってできており、エナメル質の表面はでこぼこしているからです。通常はエナメル質の表面に唾液由来のたんぱく質が吸着して滑らかになっていますが、高濃度の過酸化水素を作用させるとこのたんぱく質が分解されて消失してしまうので、エナメル質表面のでこぼこの構造が露出して「すりガラス状」になるといわれています。

ホームホワイトニングでは過酸化尿素を使用したり、低濃度の過酸化水素を用いているので歯の表面はすりガラス状になることは無く輝くような自然の白さとなります。

過酸化水素は数々の製品(コーヒーフィルターなど)の漂白に用いられ、過去には食品の漂白剤にも使われていましたが、0.1%及び0.4%濃度の過酸化水素をマウスに74日間与えたところ十二指腸に癌が発生したとの報告があって、昭和55年より数の子の消毒、漂白以外に使用が禁止されています。
しかし、0.6%の過酸化水素をF-344ラットに78週間投与しても実験群と対照群の間に腫瘍発生率には有意な差が見られず、F-344ラットでは過酸化水素に発がん性がないと判定されています。さらにホワイトニングに用いる過酸化水素が口腔癌を引き起こしたり、促進するとの明らかの証拠は無いとの研究結果が近年報告されました。
これらの結果からホワイトニングにおける過酸化水素の為害性についてはほとんど問題ないと考えられます。

過酸化水素の代謝

生体内には過酸化水素を分解する酵素として組織内にはカタラーゼ、唾液中にはペルオキシダーゼがあります。
いずれも過酸化水素を水と酸素に分解するので、たとえ体内に過酸化水素が入ってきてもその為害性は急速に消失します。

過酸化水素の毒性

過酸化水素は皮膚に触れると激烈な痛みを引き起こします。
25%以上(オフィスホワイトニングでは35%濃度を用いる)の過酸化水素が皮膚や粘膜に触れると激しい痛みを生じさせます。
目に入ると失明の恐れもあるので注意深い取り扱いが必要です。
少量の過酸化水素を経口投与しても急速に小腸のカタラーゼで分解され、毒性は現れません。

過酸化水素を口腔洗浄剤などで長期間使用していると舌乳頭の肥大化を起こすことがありますが、使用を中止すると症状は改善されるので、もし過酸化水素系の口腔洗浄剤を使用している方は時々舌の状態をチェックしてください。

それからオフィスホワイトニングで用いている高濃度の過酸化水素は刺激性の蒸気を発生させる可能性があるので、呼吸器の病気があるか既往の患者さんには換気を十分に行った状態で使用することが重要となります。もし呼吸器系の病気を抱えている、または過去に抱えていた方はオフィスホワイトニングをする場合はあらかじめ歯科医に話しておいてください。