ホワイトニング治療について――上級編
第七章 ホワイトニングによるQOLの向上
ホワイトニングは単に歯を白くするばかりではなく、その人の生活の質(Quality of life、 QOL)の向上にもつながることを最後にお話しようと思います。
1 口臭を減らし虫歯や歯周病にかかりづらくする
近年口臭を気にする人が増えて、口臭を防ぐと称する製品が多く売られるようになりました。
口臭の原因には口の中にある場合と口の外にある場合があります。
口の外の原因としては胃の調子が悪い場合が代表的なものです。
ストレスが強かったり生活のリズムが乱れると胃の調子が悪くなり、そうすると口臭がひどくなります。この場合は胃が原因ですから胃の調子が悪くなる原因を取り除く必要があります。
口臭のもうひとつの原因として口の中にいる細菌が増えることがあげられます。
本来口の中には小腸と同じように常在菌がいます。
体調が悪くなるとこの常在菌の数が増えたり、悪玉菌が増えたりします。そうすると口臭が強くなるのです。
ホワイトニングで使用する漂白剤は殺菌剤と同じ成分なので歯を白くしている間に漂白剤により歯の周りの細菌も殺菌されるので、結果的に口臭が減ることになるのです。
しかしこれは一時的なものですから、口の中の細菌が増える原因を取り除かなければまたもとの状態に戻りますので、口臭でお悩みの方は一度歯科医とご相談ください。
ホワイトニング治療を受けようという意欲がある人は、多かれ少なかれ自分の口に対して興味を抱いていると思います。歯が白くなると今まで以上に自分の口の中に興味を持つようになり、普段は何気なく見過ごすような変化を見つけることができるようになります。
その結果、虫歯や歯周病を早い時期に治療することが可能となります。
ひどくなるまで我慢して、それから痛い思いをしながら長い治療時間と高い費用を支払う場合と、1回の治療で痛みもほとんど無く費用もほとんどかからない場合のどちらを選びますかといえば、おそらくほとんどの人が後者を選択するではないでしょうか。
しかし実際には前者を実行している人が多いと思われます。仕事が忙しいから、まだ痛くないからと、歯科医へ行かない理由はいくらでもあるでしょうが、それは結局行きたくない、ということです。
そういう人ほど一回ホワイトニング治療を受けてみると今までの歯科医に対するイメージが変わると思います。
歯科の診療所というと、どうしても痛い治療をする所というマイナスの連想しか思いつかないでしょうが、歯が白くなるということを経験することで、なりたい自分へ一歩近づいたということを実感することができます。
そして歯科医への親近感も一段と深まるのではないでしょうか。
さらに何かあればすぐ相談できるような関係が歯科医との間にできれば、それは大きな財産です。
今はその価値がよくわからないかもしれませんが、20から30年後になってみると、それまで何かあれば歯科医に相談していた人と、虫歯や歯周病がひどくならなければ歯科医へ行かなかった人では大きな差になってきます。
おそらく何かあればすぐ歯科医に相談していた人は年をとってもほとんど歯を失うことがなく、入れ歯とは無縁だと思います。
一方我慢できなくなってから歯科医を訪れていた人は50歳台で何本も歯を失い、ひどい人は総入れ歯に近い状態になっているかもしれません。あなたはどちらになりたいでしょうか。
2 ホワイトニングをすることはなりたい自分への第一歩
多くの人は治療を受けて治るとうれしく感じます。
しかし客観的にみれば元の状態にもどったということにすぎません。
一方ホワイトニング治療を受けて歯が白くなるということは今までの自分よりさらに望んでいた自分に近づくということを意味しています。
美容整形を行うことにはいろいろ議論はありますが、たしかなことは、その人がいままでの自分よりすばらしいと思える自分の姿を具体的に手に入れた、ということです。
ホワイトニングを行うことは美容整形ほどのインパクトはないでしょうが、確実になりたい自分へ一歩近づく方法なのです。
こうなりたいとか、ああなりたいとか思うようになると、物事に対して積極的に取り組むようになってきます。
よき人生を送るには物事を肯定的に捉えることが必要で、肯定的に捉えるか否定的に捉えるかはその人の心の持ちようです。そして心はほんのちょっとしたきっかけで簡単にかわるものなのです。
だから同じものを見ていてもあるときは嬉しく感じ、あるときは悲しく感じるのです。常に肯定的に物事を捉えるように自分を仕向けていなければ、心はすぐに否定的に見がちになります。
肯定的に捉えるようになるには、自分がだんだんと良くなっているという感じを持つことが大いに助けとなります。ホワイトニングを行って歯が白くなるこという具体的な経験を得ることは、自分がよくなっていくという実感を持つ第一歩になり、ひいては物事を肯定的に捉えられるようになるのだと思います。
3 ホワイトニングをすると将来大きなお金の節約になる
ホワイトニングとお金の節約とどう結びつくのかぴんとこないかもしれませんが、これは日本の医療制度が大きくかかわっていますので、簡単に説明します。
日本の医療制度は国民皆保険といって必ず何らかの保険に入るようになっています。
病気になると必ず保険証を探しますね。保険証がないと医者にかかれないからです(正確に言えば保険証がないと全額自己負担となるのです)。
診察が終わると病院の窓口でお金を払いますが、実際かかった医療費は保険の本人の場合、窓口で払った額の3倍になるのです。
では実際の医療費と患者さんが払った金額との差は誰が払うのかというと健康保険組合や国が支払っています。会社員の場合は本人と会社が保険料を折半してお金を出し合い医療費のためのお金をプールしています。これが健康保険組合です。そして治療費の請求が病院からあるとプールしたお金から支払っているという仕組みになっています。
自営業者など会社に属していない人は国民保険といって会社に代りに国が保険料の一部を出してお金をプールしています。今この仕組みが急速に破綻へと向かっています。それはプールしているお金が急速に減ってきているからです。最近はプールしていたお金が底をつき解散する健康保険組合が増えてきました。
なぜ急速にプールしていたお金が減ってきたのかというと、お金(保険料)を出す人がわずかに減る一方で、病院にかかる人が増え医療費の請求が多くなっているからです。
すなわち病気の人が増えているのです。
どうしてかと思われるかもしれませんが、今日本は急速な高齢化社会へと変わりつつあります。
そして老人は何らかの持病をかかえているので、病院へ通うことが多くどうしても医療費が増えていくのです。
そこで今政府がやろうとしていることはプールするお金を増やし、そこから出るお金を減らすということです。
プールするお金を増やすには国民が支払う保険料を高くし、出るお金を減らすには、かかった医療費を減らすようにしています。
医療費は「出来高払い」といって患者が受けた治療について請求されます。個々の治療内容は点数化されていてその合計が医療費になるのです。政府は個々の治療内容の点数を下げ、保険医療として請求できる治療内容を制限しようとしています。
確かにこれを進めれば医療費は減るでしょうが、医療レベルも下がらざるを得ません。質の高い医療はどうしてもお金がかかります。
お金がかけられなければ、質の低い治療しか受けられなくなるのです。
釈然としないかもしれませんが、病院にいくらいい機械や設備が整っていても、それを使う医師がひどければ何の意味もありません。いまのように医療費削減のしわよせが医師にかかり、医師への評価が低くなる傾向が続けば優秀な人材はいなくなり、医療の質が低下するのです。
これは非現実的なことではなくドイツでは医療費を抑制しようと日本と同様なことをした結果、優秀なドイツ人医者の多くが待遇の良い他のヨーロッパ諸国へ移動し始めているのです。
残念ながら日本の政府は今のところ方針を変更していませんから現在20、30歳台の人があと20年後にどうなっているかというと保険で診療できる医療の内容は相当制限されているだろうと思います。これは病気になったらその費用の多くを自己負担しなければならないということです。おそらく入院するような病気の場合は100万円以上の自己負担を覚悟しなければならないでしょう。これではいくらお金を倹約してためていても大病をすればいっぺんに貯金が無くなる可能性が大です。
だからこれからお金をためる一番賢い方法は病気にならない、健康を保持するということなのです。
健康を維持するために難しいことをする必要は無く、
- 規則正しい生活リズムをつくり、それを守る
- おいしく食事をし、満腹になるまで食べない
- 適度な全身運動をする
たったこの3つのことを守るだけで、「医者要らず」になることができます。
しかし、どんな良いものでも過信は禁物なので、医師による定期検査とおかしいと思ったときは我慢しないで医師に相談することも大事です。
健康であるためにはいくつになっても毎日の食事をおいしく食べられることが基本です。
すなわち健康な体を造り維持するには健康な歯が不可欠で、いつまでも健康な歯を保つためには日ごろの手入れが欠かせません。
そしてホワイトニング治療を受けることは、自分の歯にこれまで以上の関心を注ぐことにつながり、何でもおいしく食べられる歯をいつまでも保つことへとつながるのです。まさしく健康を保つ基本を実践することになるのです。
その上患者さんが美しい白い歯をいつまでも保ち続け、すてきな笑顔で周りの人を和ませることができれば、歯科医としてこれ以上嬉しいことはないのです。適度な全身運動をする